ツイッター質問箱でこのような質問をいただいた。
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再録禁止カードは今後手に入れる難易度が上がってくるでしょうか?
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回答だけならシンプルに「YES」で終わりだったのだけれども、
せっかくなので理由をいくつか書いたほうが良いと思った。
今回はその理由と補足説明をのんびりと書いていこう。
もしお時間ある人は、
一度読んだ人でも、
も読んでいただければありがたい。
上述のこらむにも書いてあるけれども、
・婚約者が勝手にカードを棄てて婚約破談。
・息子のカードを母親が勝手にヤフオクに出品。
・友人のデッキを借りて、そのままカードショップに売り払った。
といったような事は、
どれも100%本当にあった事と確認はとれていないものの、
実際に話題にならないものが山とあるだろうし、
このこらむの時の原画を棄てられてしまった話からも、
この世に残っている芸術品は結構失われているものは多いだろう。
今を生きる人達は、
「過去の天才が残して失われた芸術品」
が何であったかを知る術なんてほとんど残されていない。
美術の世界では、
「レゾネ」
と呼ばれるものがある。
これはその芸術家だった人の作品集でもあり、
真作と贋作を見分けるための資料として作られている。
しかし、レゾネには人知れず失われた作品は掲載されていない。
当然の事ながら、
一度も見つかっていないものをレゾネに載せられないから。
個人が所有するコレクションというものは、
個人の家族によって失われる場合があるのは、
MtGも美術品も全く変わらない。
そして個人も法人も関係なく、
火災、地震、津波等の災害により失われる事もある。
MtGのカードも全く同じで、
再録禁止カードにだけ目が行ってしまう人が多いのだけれども、
再録禁止カードだけではなく、どんなカードでもそれは同じ。
例えば、高額カードで有名な
《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
というカードは、
これを読んでいる大半の人が知っているはず。
このカードは最初にワールドウェイクで登場。
その後、再録をされているけれども、
ワールドウェイクが再度刷られるわけではないので、
ワールドウェイク版という初版は当然「絶版」になっている。
プロモーションカードに至っても同じ理屈で、
これまた多くの人が知るカードでいこう。
《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》のプロモ版。
これは多くの人に馴染みのあるカードだが、
このプロモ版は当然ながら、
このプロモが発行された時に刷られただけで、
これもまた絶版の扱いだ。
再録禁止カードにはどうしても目がいってしまうけれども、
どんなカードも
「最初にそのセットで登場した」
「限定版のプロモやFoilがある。」
という条件に照らすと、
再録禁止以外のカードでも十分に入手難度が上がってくる。
ましてこれが、
10年、20年という歳月を超えてきたら、
なおさらに入手は難しくなる。
とは言うものの、
再録禁止で入手難度が!
という話題になるものは、
おおむね、トーナメントカードに限った話題と言ってもいい。
これは芸術品とて同じ事。
無名の人の作品がどれだけ失われても誰も気にしない。
ところが、
ひとたび有名になった人や、
既に芸術家の称号を持っている人のものであれば、
多くの人がそれを軽々しくは扱わない。
無名の天才が歴史の中にいただろうけれども、
その作品とその名が後になって掘り起こされるケースは稀だ。
再録禁止の入手難度の話では、
やはりα版、β版、Unlimited版のカードが最も話題となる。
デュアルランドの事まで加えればRevised版も入る。
MtGのα版、β版、Unlimited版の各レアカードは、
3種類のセットを合わせて約2万枚ずつ刷られたと言われている。
仮にこの2万枚が本当であったとして、
そのうちの何割かが既に失われていると考えたほうが良いだろう。
家族に棄てられるケースだけではない。
考えられる事は以前に挙げた事以外でも結構沢山ある。
・価値がわからないままMtGを辞めてしまい、棄ててしまった。
・所有者が死亡して、遺族は価値がわからず棄ててしまった。
・災害に遭って失われた。
・結婚して子供が出来て、子供が破ってしまった。
ここでは多くを触れないでおくけれども、
拡張アートと称してカードの上にインクを乗せる事も、
カードをこの世から失わせる行為である。
あれこれと拡張をやっている人の理屈はあるものの、
そもそも、
「カードに対して人為的にインクを乗せて、
カードの重さや厚さが変化する事。」
というのはイカサマを疑われる行為になる。
少し話はそれるけれども、
《運命のきずな/Nexus of Fate》というカードは、
現状、Foil版しか存在せず、
グランプリ等の大きなトーナメントではジャッジ発行の代用カードが使われている。
大きなトーナメントで通常発行のカードに対して代用カードが発行される事が異常なのだが、
偽物でもなければ手を加えてもいないただのFoilカードがこの状況なので、
大量にインクを乗せたカードなどでトーナメントに出る事は、
十分にイカサマを疑われるリスクになる。
それに、2019年にイカサマを疑われて失格になったプレイヤーは、
スリーブに細工をしたという疑いをかけられていた。
こういう事からも、
自分がそうなりたくないのであれば、
MtGに対して真摯でいたいのであれば、
「瓜田に履を納れず
李下に冠を正さず」
という諺の意味くらいは知っておくべきだ。
誤解されている方がいるので書いておくが、
自分の好き嫌いで拡張は駄目だと言っているのではない。
さて、お話を戻そう。
様々な理由でカードも芸術品も、
失われてしまう恐れがある事は理解出来たと思う。
α版やβ版、Unlimited版の各レアは現存は何枚なのだろう。
特にこれといった根拠が無いのは申し訳ないのだが、
1割、つまり2000枚程は既に失われているのでは?と思っている。
下手をすれば2割、4000枚程がこの世から消えている可能性もある。
自分が知っている限りで言えば、
友人が所有していた《Mox Ruby》は、
友人の住んでいた家の火災によって1枚失われている。
こういう事がどこかでも起きていると考えたら、
1割ないしは2割は既に消滅していると考えるのは、
何も不思議な事ではないように思える。
今後もこういった事故が起きる事は間違いない。
ついでに言えば、
今MtGをプレイしている人の99%は100年後にだいたいは死んでいる。
残り1%で生き残っている人も100歳超えになるのだから、
いつお迎えが来てもおかしくない年齢だ。
その年齢でMtGをプレイしているのだろうかも疑問だ。
100歳になってもMtGが出来る元気なご老人になれればそれは素晴らしい。
けれども、
200年後なら100%誰も残らない。
余程医学が発達して人間の寿命が200歳以上になれば話は別だが、
普通なら200年後に今の人間は死んでいる。
今、MtGを楽しんでいる全て人達、
自分が死んだ時の事を考えた事があるだろうか?
これは案外と少ないはずだ。
当たり前なのだ。
普通の人は
「どう生きるか?」
を考えている。
店主みたいに
「どう死ぬか?」
と考えている人のほうが少ない。
人というやつは、だいたいなのだが、
生まれてから60歳くらいまでは、
「どう生きるか?」
のほうに目が行く。
死ぬ寸前や定年退職くらいにならないと死について考えない。
あの世にカードを持って行けるのなら話は別だ。
多くのMtGプレイヤーは喜んで持って行くだろう。
最もそれが出来たらこの世にある再録禁止カードが減っていくので、
入手難度はさらに上がる事になるが。
あの世にカードを持っていけるのなら、
この世にある《セラの天使/Serra Angel》の枚数を激減させてやるのだが、
現実問題、あの世にカードは持って行く事は出来ない。
「貴方が死んだ時、
貴方の所有していた全ての物の所有権が
貴方以外の誰かに移る。
もしかしたら棄てられてこの世から消滅する。」
これを考えた事があるだろうか?
実際に誰かが死に、
誰かがそのカード資産を受け取り、
また誰かのもとへ行く。
店主の知っているお客様であり、
友人でもある方に、
「私は既に遺書を書いてある。
私のカード資産は遺族にどのように分配するかを書いた。
もし困ったらCardshop Serraに相談する事も伝えてある。」
と言っている人がいる。
これを聞いた時に
この人はすごい!
先々の事を考えている!
と非常に驚いた。
他にも数人、
「(店主よりも)俺の方が先に死んだ場合、
加藤英宝のもとに全て(カード)を持っていけ。
悪いようにはしないだろう。」
という旨を家族に伝えている人を知っている。
MtGが生まれて最初の数年、
多分誰もが思わなかった事を、
こうして思うようになっている人が出始めている。
MtG黎明期と言えば、
「MtGはいつまで続くのか?」
が話題の1つだった。
参考:お客様からの質問:MtGはいつまで続くか?
参考:MtGはいつまで続くか?(あれから5年後)
昔はこの文章の意味は、
「いつ終わるんだろう?」
という意味だけだった。
今は同じ文章でも意味が違う。
「MtGは少なくとも自分が生きている間は続くだろう。
その後どのくらい続くのだろう?」
という意味に変わった。
だからこそ、
自身の死後のMtGを考える人があらわれた。
陳腐な言葉を使わせてもらうと、
「もし絶対という言葉があるのなら、
それは人間の死亡率だ。」
という言葉がある。
現在地球上で200歳の人はいない。
200年前の人はもう地球上に1人もいない。
200年後でも多分そうだろう。
つまり、現在地球に生存しているMtGプレイヤーは、
いつかの未来で、自分の全てのカード資産の所有権を失う。
(カード資産だけではなく全ての所有権を失うのだが。)
嫌だと言っても、
それが人間の寿命というものだ。
貴方ではない誰かが、
貴方のカードを持つ日が来る時、
貴方と価値観が違う誰かがカードを持つかもしれない。
そうなる時、
カード達はしっかりと誰かに相続されていくのだろうか。
これを考えていくと、
再録禁止カードもそれ以外のカードも、
結構入手難度は上がっていくだろうと思う。
棄てられる事なく、MtGは生き続けて欲しい。
そのためにも皆様、
今、自分の手元にあるカードを大切に!
そして手放す際にも、
未来の人に託す気持ちを忘れずに!
MtGを100年後の未来、200年後の未来に残そう!
ではまた。