店主の友人にはKという男がいる。
MTG黎明期と呼ばれたりもする、
日本語版第4版やミラージュブロックの時代に知り合った友人だ。
今回のこらむはデッキ紹介ではなく、
MTGで出会った友人のありようを紹介したい。
このKは東京に住んでいるが、
時々静岡まで遊びに来てくれる。
前述の通り、店主とはとても長い付き合いの友人の1人。
先日もCardshop Serra主催のレガシー大会に顔を出してくれた。
Serra「今日は何のデッキ?」
K「ジャンドに青が入ってる。」
Serra「ジャンドに…青…?」
K「ああ、ジャンドに青。」
自信を持って話す彼の左手にはチューハイの缶が握られていた。
デッキを作ったのは今日なのか、
それとも昨日なのかはわからないが、
Kはお酒を飲みながらデッキを作ったような気がする。
ジャンドって何?という人もいるかもしれないので、
簡単に説明すると黒赤緑のデッキで、
この3色の優秀なカードを全力で突っ込みました!というデッキだ。
K「華麗に優勝をかっさらうから見てろ。」
というので、
試合を見ている事にした。
観戦開始から1分もしないうちに、
店主の頭に1つの疑問が出てきた。
「このデッキ、本当にジャンドだろうか?」
ずっと観戦をしていても、
この疑問の答えは出そうにない。
1ターン目にKがセットしたカードは《汚染された三角州/Polluted Delta》。
ジャンドに青が入っているというくらいだから、
ここはわかる。
《Underground Sea》を持ってくるのもわかる。
即《渦まく知識/Brasinstorm》を撃っている。
はて?ジャンドに青が入っている??
《渦まく知識》はデッキに4枚だろうか?
「ジャンドに青」
というからにはジャンドカラーがメインで、青はタッチのはずだ。
そのタッチ的役割の青は《渦まく知識》だけなのだろうか。
わからない。
そのまま黙って観戦していたら、
《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
《思考囲い/Thoughtseize》
《突然の衰微/Abrupt Decay》
と、確かにレガシーのジャンドに入っている面々が出てきた。
なるほどなるほど、
このへんは確かにジャンドのカードだなぁと思いながら見ていた次のターン。
彼のドロー・ステップで引いたカードは、
《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
ヴェ、ヴェんデぃリおン?
な、何故?
《Vendilion Clique/ヴェンディリオン三人衆》
コスト:1青青
伝説のクリーチャー フェアリー(Faerie) ウィザード(Wizard)
瞬速
飛行
ヴェンディリオン三人衆が戦場に出たとき、
プレイヤー1人を対象とし、そのプレイヤーの手札を見る。
あなたは、その中から土地でないカードを1枚選んでもよい。
そうした場合、そのプレイヤーは選ばれたカードを公開し、
それを自分のライブラリーの一番下に置き、その後カードを1枚引く。
3/1
レア(モダンマスターズでは神話レア)
ヴィンテージでさえ出て来る事がある優秀なフェアリー。
コストは1青青。
ジャンドに入っている事はない。
試合中ゆえに、声を出すわけには行かないが、
観戦していて面白くなってきた。
面白くなってきたが、
このデッキがジャンドかどうかは相変わらずわからない。
そして、サイド後の2戦目。
Kの対戦相手はスニークショーと呼ばれるデッキ。
《実物提示教育/Show and Tell》か
《騙し討ち/Sneak Attack》で、
《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》か
《グリセルブランド/Griselbrand》を出す、
レガシーでよく見るデッキの1つだ。
既にサイドボード後の2戦目をしているのだが、
Kの手札には《突然の衰微》がある。
確か自分の記憶では、スニークショーのデッキの中で、
土地以外のパーマネントでコストが最も低いのは4だったはずだが…。
《突然の衰微》はどう考えても撃つ対象があるようには思えない。
試合後、
Serra「なんで《突然の衰微》がサイド後の手札にあったん?」
K「え?」
Serra「いや、スニークショーってコスト3以下のパーマネント無いよね?」
K「言われて見れば…。うむ、抜き忘れた。」
Serra「《突然の衰微》デッキに何枚?」
K「4。」
Serra「サイド後に相手に効かないカード4枚入れたまんま?」
K「そういうことになるな。」
《突然の衰微》をサイドアウトしなかったからか、
この試合には負けている。
お酒のせいだろうか。
お酒のせいだという事にしておこう。
第2回戦目は奇跡コン相手に勝利。
特筆すべき事は無いが、
どうも青いカードを大量に見る。
赤いカードはあまり見ない。
これは本当にジャンドなのだろうか。
続いて第3回戦目。
Kの対戦相手は「青くないジャンド」。
対戦相手の「青くないジャンド」からは、
当たり前なのだが、
「ああ、ジャンドだね。」
とわかるカードだけが飛んで来る。
対戦相手の出した、《血編み髪のエルフ/Bloodbraid Elf》を見て思った。
そういえばKのデッキで一度も《血編み髪のエルフ》を見ていない。
たまたま引いていないかもしれないが、
《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》も見ていない。
第3回戦目まで見ていても、
このデッキはジャンドかどうか全くわからない。
見ているカードから想像するに、
青黒緑タッチ赤
のようにしか見えないのだが。
そして、そんな純正ジャンドとの戦いの中、
彼は1マリガンしたところで、突然言い出した。
「アンコの壁があるから通しだろ。」
この一言を発して手札をキープしてゲームを開始した。
ん?何を言い出したんだろう?
と手札を見に行った。
この手札である。
土地を1枚既にセットしている。
確かに《渦まく知識》がアンコになっている。
(アンコ:麻雀用語で同じ絵柄が3枚、自分の手に揃うこと)
この手札をジャンドと言って信じてくれる人は、
この世界にいるのだろうか。
彼の発言は麻雀がわからない人にはサッパリわからない話なのだが、
麻雀がわかる店主でも発言の意図はサッパリである。
麻雀用語の「アンコの壁」というものは理解出来るのだが、
それを「通し=手札をキープ」する事とどう関係しているのか、
彼の脳内でどんな麻薬が精製されているのか、
Cardshop Serraの店主ごときでは理解出来そうにない。
なお、彼は試合に負けた。
淡々と文章で書いているとなかなか雰囲気というものは伝わらないのだが、
もう「アンコの壁」発言と手札確認あたりで、
笑いをこらえる事は出来なかった。
Serra「アンコの壁、通ってないよ!」
K「あそこはアンコの壁を信じて勝負するとこだろ!」
Serra「麻雀なのかMTGなのかわからないよ!」
K「似たようなもんだろ!」
Serra「東京から麻雀しに来たのか?それともMTGしに来たのか?
それさえもわからなくなってきたぞ。」
こんな会話を2人で大笑いしながらである。
なお、聞いているお客様やスタッフも笑っていた。
そんな彼のデッキを全試合終了後に見せてもらった。
デッキ名:ジャンドに青が入ってる。
-クリーチャー13枚-
4《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
2《闇の腹心/Dark Confidant》
2《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
1《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
-インスタント21枚-
4《稲妻/Lightning Bolt》
4《渦まく知識/Brainstorm》
4《突然の衰微/Abrupt Decay》
4《蓄積した知識/Accumulated Knowledge》
2《イゼットの魔除け/Izzet Charm》
2《もみ消し/Stifle》
1《コラガンの命令/Kolaghan’s Command》
-ソーサリー7枚-
4《思考囲い/Thoughtseize》
3《思案/Ponder》
-アーティファクト1枚-
1《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》
-土地-18枚
1《Taiga》
1《Volcanic Island》
1《Badlands》
2《Tropical Island》
2《Bayou》
2《Underground Sea》
2《汚染された三角州/Plluted Delta》
2《血染めのぬかるみ/Bloodstained Mire》
2《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
3《不毛の大地/Wasteland》
ジャンド…、ジャンドねぇ…。
マルチカラーやハイブリッドはどちらの色としても扱うとして、
青:18枚
黒:15枚
赤:7枚
緑:12枚
ジャンド…、ジャンドねぇ…。
Serra「Kさんや、このデッキは比率からして青黒緑タッチ赤に見えるのじゃが。」
K「ジャンド。」
Serra「赤マナが出る土地が1番少ないように見えるのじゃが。」
K「ジャンド。」
Serra「これでもまだジャンドというか。」
K「ジャンド。」
ジャンドらしい。
Serra「で、なんでこれ《血編み髪のエルフ》無いの?」
K「持ってないから。」
Serra「《ヴェールのリリアナ》は?」
K「あれって強いの?あ、持ってないけど。」
Serra「《蓄積した知識》入れた理由は?」
K「手札使いきったら補充したいじゃん。」
Serra「で、これジャンドじゃないよね?」
K「ジャンド。」
Serra「色がどうみても青黒緑(スゥルタイ)じゃない?」
K「カウンターが入ってないからジャンド。」
ジャンドらしい。
会話はキャッチボール出来ているのだが、
周囲はこれを聞いて笑いっぱなしである。
彼は何年か前にこんな事も言っていた。
「デッキを作る時はまずビールだ。
一杯やってから構築するんだよ。
そうするとこう、素晴らしいアイデアが出るんだよ。」
店主はMTGを随分と長くやっているが、
この台詞は彼からしか聞いたことがない。
なお、彼の面白さはこんな文章だけでは伝わらない。
彼のトンデモエピソードはこんな短い文では書ききれない。
(知りたい人は店主を居酒屋に誘おう。)
が、
何はともあれこれを読んでいる人には忠告をしておきたい。
・麻雀とMTGをごっちゃにしてはいけない。
・デッキを作る時に、まずビールを飲んではいけない。
・ジャンドに青を入れてはいけない。
「やるわけないだろ!」
という声が聞こえてきそうなところで、
今年のこらむはこれにて終了。
来年もCardshop Serraをよろしくお願いします。
ではまた。
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ジャンドに青が入ってる。
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